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名古屋家庭裁判所 平成元年(少ハ)4号 決定 1989年9月19日

少年 Z・J(昭44.7.27生)

主文

本人を平成2年1月10日まで特別少年院に継続して収容する。

理由

(申請の要旨)

本人は昭和63年10月11日名古屋家庭裁判所で特別少年院送致の決定を受け、同月12日愛知少年院に収容され、同月25日少年院法11条1項但書による収容継続決定がなされたものであるが、平成元年10月10日をもってこの収容期間が満了となる。

本人は指示、指導には一応従って生活してきたが覇気に欠け、消極的な姿勢が目につき個別面接や職業補導等において種々改善指導を加えてきたところようやく真剣な取り組みができるようになりつつある。しかしながら本人は以前にも少年院に収容され仮退院後再犯により当少年院収容に至ったものであるがその経過や性格上の問題点から今後なお楽観できない点がある。すなわち本人は当少年院収容前暴力団組員として活動してきてこれからの離脱、絶縁が最大の課題であったところ、当初は本人も容易に離脱の意志を表明するに至らず、説得指導の末ようやくその決意を固めるに至り所轄警察署を通じ所属の暴力団組長にその承認を求めたのであるが、その回答によると同組長は本人の意志次第であるとして離脱承認書の類の発行を拒否しており、今後も本人に対する働きかけがあることが懸念されるのである。また本人の家庭環境は劣悪で父母は殆んど少年をそのなすがままに放任してきたのであってこのような従前の経過をも勘案すると本人がこのまま改善に向うには種々の困難が予想され、施設内での適応がそのまま社会適応に移行できるとは限らず、むしろ出院後適当な枠組みを持たない場合は本人が保護者のもとに定住できるかも危惧されるし、上述の状況から暴力団組関係の復活も多分に懸念される状況にあるというべきである。

他方本人は特別とりあげるほどの反則行為等もなく平成元年7月1日中間期教育過程後期の目標を達成して1級上に進級し現在出院準備教育の過程にあり、9月28日を仮退院希望日としてその申請が予定されているところこれが実現すれば、上記期間満了までの仮退院後の保護観察期間は2週間に満たないこととなるのである。しかし上述の次第で本人が出院後の社会適応を円滑に果すためには出院後も本人に対し相当の保護機関による指導が必要であり、上記期間満了後少くとも3か月程度の保護観察を確保することは欠かせない要請というべきである。

よって本人に対し上記期間満了日よりさらに3か月の収容継続が必要となるのでその旨の決定を求める。

(当裁判所の判断)

1  本人は昭和63年10月11日特別少年院送致決定を受け、同月12日愛知少年院に収容され同月25日少年院法11条1項但書の収容継続決定により成人後の現在に至ったものである。その主として改善を要すべき問題点は、収容前暴力団組員として徒食、遊惰の生活を送ってきたことからいわゆるヤクザ気風に親和しており、自制心に乏しく、感情的になりやすいこと及びこのような感情や欲求を直ちに暴力的ないし反社会的言動に結びつけがちなことなどであるが、その他規範意識の薄弱なこと、地道な勤労の意欲や習慣が身についていないことなどがあげられている。そして当少年院の前にも中等少年院(一般短期処遇課程)に収容されたことがあるのにその後の経過は良好といえずこれらの点が依然改善されていないことが課題とされたのであり、従来必ずしも更生への足取りが順調なものでなかったことが明らかである。

2  当庁家庭裁判所調査官の調査報告(これに記述され、かつ審判に立会い陳述された愛知少年院統括専門官○○の意見を含む)を主とする調査記録及び本件申請の一件記録に本人審問の結果を総合すると以下の事実を認めることができる。

1) (申請の要旨)に記述したとおりの本人の愛知少年院収容に至る経過と院内における本人の生活態度、現在処遇の最高段階に達して仮退院が目前に見込まれる状況にあること、それにもかかわらず最大の課題である暴力団からの離脱絶縁については必ずしも楽観を許さない状況にあることなどの諸事情、これをやや詳しくみるに本人は2度目の少年院生活という経歴から生活要領を心得ていて指示、指導には一応従ってきているが覇気に欠け消極的な姿勢が目立ったため個別面接など重点的指導を加えられて次第に改善の方向に向いつつあり、平成元年7月1日1級上に進級し出院準備過程にあること、しかしながら院内での生活態度は依然今一歩の覇気に乏しいうえに、懲戒に至らないまでも暴力団組員であった当時のいわゆるヤクザ気質の考え方や素振りがなかなか抜けなかったもので、最近になってようやく改善の方向にあるものの表面はともかく内面はなお不安定とみられること、最大課題である暴力団からの離脱、絶縁は継続指導により本人がようやくその決意を表明したのであるが、警察署を通じての離脱承認の書面の提出の慫慂に対し本人所属の当の暴力団組長は本人の意志次第であるとしてこれを拒否している状況であり7月から8月にかけて本人の留守宅の母のもとに数回にわたり組関係を疑われる者から本人の出院の有無や時期を尋ねる電話がかかってきていて本人出院後も働きかけがあることが充分に予想され警戒を要すること、家庭には大酒家でアルコール依存症の傾向があって本人との接触も乏しく、本人の行動をそのなすがままに放任してきた嫌いのある父(48歳、工員)と週3回の透析を受ける慢性腎不全の痼疾を有して病弱な母(42歳)とがあるものの、このような脆弱かつ劣悪な保護環境のもとに従来少年は家庭に寄りつこうとしなかったのであり、家庭にあった当時も気儘に振舞って両親の指導を受け入れる姿勢がなく、両親もまた少年に接するに「腫れもの」に触わるような態度でのぞんできたことが窺われ、本人の年齢、体格や従来非行を重ねてきた経過とも考え併せると本人に改善された点があるとはいえ到底家庭のみの監護に期待できる状況とはいえないこと、本人が7月1日1級上の出院準備教育の過程に進んでより現時点ではさらに2か月余を経過し、中部地方更生保護委員会に対し本人の仮退院希望日を9月28日とする申請がすでになされていて申請どおりの仮退院が見込まれているところ、この日程に従えば上記期間満了後の保護観察は僅か12日間を与えられるだけとなり、円滑な社会内処遇への移行を確保することはきわめて困難であること、

2) 本人は出院後地元の男性衣料品店「メンズショップ・○○」に就職を予定し、雇主から承諾をえているが、親元からの通勤で勤務先は春日井市内にあって同市内に元本人の所属していた暴力団組事務所があり、その関係復活が一番の懸念であるうえ、職場や家庭への定着についても本人の勤労意欲や家庭状況とも考え併せなお不安が拭えないこと

3) 本人もこのような事情から主として仮退院後の社会適応を安定的に確保するための保護観察を目指して本件申請のなされた事情、経緯のあらましを了解し、むしろ出院後の仕事上に困ったときの相談相手やようやく離脱を決意した暴力団からの誘いを断わるためにも保護司の援助、指導があるのが望ましいので、そのための保護観察期間が3か月程度のびることに何らの不満はなく、申請のとおりの収容継続に異議なく従う覚悟であること

3  以上のとおり認められ、これらの事情を総合すると本人の犯罪的傾向及び改善を要すべき資質上の問題点は相当程度に矯正ないし改善されて出院を間近かに迎える段階に達していると認められるものの、上記収容期間満了後社会内処遇に移行したうえこれを相当期間継続するのでなければ、以前の暴力団組員としての関係が復活するおそれがきわめて多大であるし、また家庭に定着し、就労の面で安定するためにも専門家による適宜の指導、援助は欠かせないところと思われる。

そうすると本人に対しては上記期間満了の日(平成元年10月10日)以後においても相当期間の保護観察を行なう必要があると認められるところその期間は叙上諸般の事情を考え併せ上記満了日よりさらに3か月間と定めるのが相当である。

よって本件申請は収容継続期間についての意見の部分を含め相当であるからこれを認容することとし、少年院法11条4項、少年審判規則55条に則り主文のとおり決定する。

(裁判官 上本公康)

〔参考〕 収容継続申請書

愛少院発第666号

平成元年7月12日

名古屋家庭裁判所長殿

愛知少年院長

収容継続申請書

少年院法第11条第2項の規定に基づき、下記少年の収容継続を申請する。

1 氏名 Z・J

2 生年月日 昭和44年7月27日

3 事件番号 昭和63年少第3243・5514・A1698号

4 事件名 恐喝・傷害・恐喝未遂・道路交通法違反

5 本籍 愛知県小牧市○○××番地

6 住居 愛知少年院在院中

7 決定日 昭和63年10月11日

8 決定内容 特別少年院送致

9 入院日 昭和63年10月12日

10 但書収容期限 平成元年10月10日

11 収容継続申請理由 別紙「収容継続申請理由」のとおり

12 収容継続期間の意見 平成元年10月11日から3か月

別紙 収容継続申請理由<省略>

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